いい絵本み〜つけた!!
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「有名な昔話・すばらしい児童文学=すばらしい絵本」
誰でも知っている有名な昔話(民話)、あるいはすばらしい児童文学であるといっても、それによって「すばらしい絵本になるか?」と問われると実はそうでもありません。
と前回書きましたが、児童文学作家が絵を描かれる人と共同作業で絵本を作り上げた場合、そして、民話であっても圧倒的な語り口と画力で「この民話であればこの絵本」というようにスタンダードを作り上げられた場合には、すぐれた絵本になり得ます。
今回はそんな絵本を紹介します。
ろくべえまってろよ
読み聞かせるなら 6・7才〜
自分で楽しむには 7・8才〜
有名な児童文学作家灰谷健次郎さんと、有名な絵本作家長新太さんが書かれた絵本。(灰谷さんは児童文学、長さんは絵本の分野で、それぞれ確固とした地位を築いておられます。その二人の合作なのですから、名前だけで驚かされます。)
どういうわけか穴に落ちてしまった犬のろくべえを、子どもたちみんなで相談し、助け出す手だてを試行錯誤しながら考えます。大人は興味本位で見にくるものの、あてにはなりそうもありません。
(時に「大人不信をあおる」との批判も聞きますが)灰谷健次郎さんの温かい文章、そして長新太さんの独特な絵、更にろくべえが落ちた穴の深さを絵本の向きを変えることによって表現したりなど考え抜かれた構図、すべてが一体となっているすばらしい絵本です。
おしいれのぼうけん
読み聞かせるなら 7・8才〜
自分で楽しむには 9・10才〜
古田足日さんと田畑精一さん(『さっちゃんのまほうのて』【1】など)という名コンビの代表作。
さくらほいくえんには、怖いものが二つあります。一つは「押し入れ」でもう一つは「ねずみばあさん」です。
ある日ふとしたことで喧嘩したさとしとあきらは、担任のみずのせんせいに押し入れに閉じこめられます。いつもはすぐに泣いて謝るのに、さとしとあきらは押し入れの中でもふざけるのを止めようとしません。
しばらくすると押し入れの中は不思議な世界へと変わっていきます。そして、・・・・・。
古田足日さんの簡潔でありながら想像力をかき立ててくれる文、そしてその文の魅力を更に引き立てる田畑精一さんの少し控えめでありながら存在感のある画が、お互いに引き立てながら見事に一体となった名作です。
(わたしの記憶違いでなければ)広末涼子さんが、関口宏さんの「本パラ」で紹介された本でもあります。
昔 話(民 話)
有名な昔話(民話)は、「絵本」の数が多くなり、ついつい目移りしてしまいます。
ですが、誰でも知っている昔話は数あれども、前回(15)で紹介した「(日本)民話」が少なかったのは、作者であれば松谷みよ子さん(『いないいないばぁ』【2】など)、斎藤隆介さん(『ひさの星』【10】など)。画であれば赤羽末吉さん(『スーホの白い馬』【8】など)、滝平二郎さん、梶山俊夫さん(『島ひきおに』【14】など)、田島征三さん、田島征彦さん(『じごくのそうべえ』【14】など)、長新太さん(『ぼくのくれよん』【8】など)などなど、すばらしい文、すばらしい絵を描かれる人の効力によるものだと思います。
今回は、赤羽末吉さんの代表作を(わたしの独断で)4冊選んで紹介します。
かさじぞう
読み聞かせるなら 4・5才〜
自分で楽しむには 5・6才〜
赤羽末吉さんの出世作。
笠が一つも売れず、正月のもちも買えず家路を急ぐおじいさんは、道すがら吹雪ににさらされるお地蔵さまを見かけます。
気の毒に思ったおじいさんは自分の笠を脱いでまで、お地蔵さんに笠をかぶせてあげます。
するとその夜・・・・。
誰でも知っているであろう話で、事実この絵本も35年も前に出版されている古典絵本ですが、日本の昔ながらの技法を生かした赤羽末吉さんの画風には古さを感じません。
ももたろう
読み聞かせるなら 5・6才〜
自分で楽しむには 6・7才〜
桃から生まれた桃太郎が、きび団子をもち、さる、きじ、いぬを従えて、鬼ヶ島に鬼退治に出かけ、金銀財宝を持ち帰る、という、おそらく誰でも知っている昔話です。
赤羽末吉さんの非常に細やかな仕事が生きている一冊であることもありますが、絵本業界大手の福音館書店から出版されているということもあり、(アニメ絵の要約された絵本を除けば)一番手にとりやすい「ももたろう」と言えます。
つるにょうぼう
読み聞かせるなら 6・7才〜
自分で楽しむには 9・10才〜
罠にかかっていたのを助けてもらった鶴がその恩返しにと、自分の羽を使ってはたを織ります。
しかし、「織っている姿を絶対に見てはいけない」との約束を破ったとき、鶴は追いすがる声もむなしく、空へと旅立っていく。
こんなおそらく誰でも知っている物語であるせいか、実は絵本も数多くあります。
ですが、ここに紹介したのは私が個人的にこの作品が赤羽末吉さんの代表作と思うからです。
一作ごとに新しい技法を持ちうるその探求心は円熟味を増し、優しかった与平の顔がしだいに欲に染まっていくさま、そしてそれと同時に「むすめ」の顔がしだいに鬼気迫るものになる様子などが、実に丁寧に描かれている会心の一作です。
王さまと九人のきょうだい
読み聞かせるなら 6・7才〜
自分で楽しむには 9・10才〜
同作家の『スーホの白い馬』(8)と同じく、海外(中国)の民話を日本で再話した絵本。
子どもがなく、悲しんでいる老夫婦のもとに白い髪の老人が現れ、老夫婦は一度に九人の子どもを授かります。その老人につけてもらった名前は、「ちからもち」、「くいしんぼう」、「はらいっぱい」、「ぶってくれ」、「ながすね」、「さむがりや」、「あつがりや」、「切ってくれ」、「水くぐり」と実に珍妙です。
やがて、九人の兄弟は大きくなり・・・・・・。
王様の難題や苦難を、兄弟それぞれの特性を生かし、次々と小気味よく次々と乗り越えるさまが痛快な絵本です。